運命の人はいかがいたしますか?
 仕事に行くと今日は飲み会だからと、みんな張り切って仕事をしていた。

 仕事が終わらなければ飲み会に遅れてしまう。杏も仕事を進めてはいたが、やはりエルのことが気になっていた。

 歓迎会は会社の近くの居酒屋だった。

 奥の座敷には他の会社の人たちも何やら飲み会をしている。
 今はどこも飲み会シーズンのようだ。杏たちも座敷の一角に通された。

 杏は飲み会の雰囲気が苦手だった。いつもよりテンションが高い同僚たちの話に合わせるのは面倒だったからだ。

 始まると頃合いをみてエスケープするためにお手洗いに立つ。
 トイレでホッと息をついた。

 それでも長い時間トイレにいるわけにもいかず、飲み会の席に戻ろうと手を洗い、出したハンカチを鞄にしまった。

 鏡で身なりをチェックした後にトイレを出ると主役の新人くんがトイレの前にいた。
 誰かを待っているような、ここで時間をつぶしていたような感じだった。

「あら。主役がこんなところにいちゃダメじゃない。それとも飲み過ぎちゃった?」

 新人の子でも飲み会の雰囲気に馴染めない子もいるわよね。
 それでここに逃げてたのかな。それならそっとしておいてあげた方がいいかもしれない。

 そう思って「じゃ私は先に戻るわ。」と新人くんに背を向けた。

「あの。待ってください。」

 声をかけられて振り向くと新人くんは顔が真っ赤だ。

「ちょっと!大丈夫?やっぱり飲み過ぎたんじゃない?」

「いえ。そういうわけじゃ…。僕なんて先輩に釣り合わないのは分かってるんですが…。」

 真っ赤な顔でうつむく新人くんの肩に手を置こうとした時に後ろから声がした。

「おいおい。俺のに手ぇ出すなよ。」

 新人くんがビクッとなって縮こまる。振り向くと春人がいた。

 まだ始まって間もないはずなのに相当飲んだようだ。赤ら顔で目も心なしか座っている。こんなに酔った春人を見たのは久しぶりだった。

「そっか。ごめんね。春人の直属の後輩だったわね。別に私の部下にしようって考えて話しかけたんじゃないわよ。」

 杏の返答に、はーっとため息をつく。

「この際だから言っとくけど、俺は杏のこと…。」
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