運命の人はいかがいたしますか?
「杏!」

 春人の話が遮られた呼び声にみんな一斉にそちらを見る。

 またあいつかよ…。弟だろ?

 春人はがっくりと肩を落とした。

「エ…っと、どうしたの?」

「杏。もう時間だよ。帰らなくちゃ。」

「時間って…。」

 エルはわざと杏の耳元でささやく。

「僕、飢え死にしちゃう。」

 ささやかれた耳を押さえて真っ赤な顔の杏をふわっと抱き寄せて、新人くんと春人を冷たくチラッと見る。

 そして「では失礼します。」とだけ言って背を向けた。

「春人。ごめん。抜けるから美優ちゃんにうまく言っといてってお願いして。」

 春人の方を向けないままの杏は声だけを残してお店を出て行ってしまった。

 新人くんと春人はお互いに顔を見合わせた。そして春人が新人くんの肩に腕を回した。

「よし!飲むぞ!」

「…はい!」

 なんでこうハズレ役ばっかなんだ…。春人は苦々しく腕の中の新人くんの頭をぐりぐりした。
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