運命の人はいかがいたしますか?
 エルは慣れた手つきで杏を抱き上げたままで鍵を開ける。こんな細い体のどこにそんな力が…。

 そう思っているとソファでもベッドでもなく脱衣所に降ろされた。

「いや…。だから一緒には…。」

 そう言う杏を無視してエルは上着を脱ぎ始める。

「ちょ、ちょっと待ってってば。」

 止める杏を無視してワイシャツのボタンまで外し始めた。
 初めてパジャマを渡した時に見えてしまった時と同じきれいな鎖骨がのぞく。

「本当に!ねぇ!先に入るなら入っていいから私は無理!」

 エルを残して脱衣所から逃げ出した。

 脱衣所のすぐ前で、ペタッとしゃがみこんでいると脱衣所のドアが開く。

「逃がさない。」

 そんな声が聞こえて半裸のエルに後ろから抱きしめられた。

 きゃー!

 杏の声にならない叫びはもちろんエルには届かない。
 杏の服しか介してない素肌がいつにも増して近く感じる。

 抱きしめられるたびに感じる男らしい骨ばった体つき。
 細くてもしっかりと引き締まった筋肉があることを否応なしに感じた。

 嫌でも男を意識してしまう状況から早く逃れたい気持ちでいっぱいだった。

「エル…。本当に無理。他のことならなんでもいいからお風呂は勘弁して…。」

 するとパッと手が離された。

「いいこと聞いちゃったっ。」

 浮かれた声を出して一人お風呂へ入っていった。

 その場しのぎで、ものすごく余計なことを口走ったかも…。頭を抱え思わず床に突っ伏した。
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