運命の人はいかがいたしますか?
第25話 無邪気な好き
 杏の髪が乾くとエルがニコッと顔をのぞきこむ。

 ドキドキを隠すように、できる限り距離をとることを試みても無駄な努力だった。

 でもエルを膝の上に乗せて乾かすなんて無理だし、どうするんだろう…。

 そう思っていると、ふわっと石鹸の香りに混じってエルの香りがしてドキッとする。
 くすぐったくて視線を落とすと膝の上にエルの顔があって、目が合った。

「え、えっと…。」

「膝枕のまま乾かしてください。」

 フフッと嬉しそうに微笑むと膝の上でゴロゴロして、それから杏の腰に手を回した。

 ちょ、ちょっと…いくらなんでもそれはないんじゃない?痩せてる方だけど、それでもやっぱりお腹とか気になっちゃうじゃない?

 杏は動揺し過ぎて口をパクパクさせるだけだ。

「髪、乾かしてくださいね。」

 杏の動揺を知ってか知らずか、無邪気な笑顔を向けて念押しする。

 とにかく早く終わらせてしまおう。そう決意してドライヤーを握った。

 柔らかくて癒される髪を堪能する余裕もなく、とにかく膝で甘える犬…と思い込んでどうにか乾かす。

 ほとんど乾かし終えそうになると、次を何か言われる前に杏は口を開いた。

「ご飯。作らなくちゃ。エルお腹ペコペコでしょ?」

 ご飯を作ればここから解放される。しかし淡い期待はもろくも崩れ去ることとなった。

「大丈夫です。杏さんと少しでも長い時間いられるように準備してあります。温めるだけです。カレーですけどいいですか?」

 膝枕から解放される作戦は失敗だった。とうとう晩ご飯まで作ってくれた。
 やっぱりこのまま「ヒモ」確定なのだろうかと苦笑する。

 でも…「ヒモ」だろうと「結婚詐欺」だろうと心になくても、もっと気を持たせるようなことを言うだろう。
 でもエルは懐いている以上の素振りは見せない。

 そう。付き合おうや結婚しようなんて言わない。そこの一線は越えてこない。

 そして 何かあれば運命の人を探すと言うのだ。そしてそのたびに仕事なんだと思い知らされた。

 別に「ヒモ」や「結婚詐欺」になって欲しいわけじゃないけど…。
< 57 / 98 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop