運命の人はいかがいたしますか?
 するとパッと手を離され、え?と思う間もなく、杏はその場に座り込んでしまった。

「ごめんなさい。脅かしすぎちゃったかな。杏さん本当に純情なんだから。」

 いつものエルに戻ると杏の鞄からアパートの鍵を勝手に出す。

「ちょ、ちょっと…。」

 状況が飲み込めない杏を軽々と持ち上げると抱き上げたまま易々と鍵を開けて部屋に入った。

「腰抜かしちゃうなんて本当、純情なんだから。」

 抱きかかえたまま、ぎゅっとするエルになんだか腹が立ってきて胸をたたく。

「もう。なんなのよ!腰なんか抜かしてないわ。降ろしてよ。」

 負け惜しみをいう杏をソファまで運ぶとそっと降ろした。

 純情っていうか、さっきのはちょっと違うくない?そんな不満を言いたくても、まだ震える唇がうまく言葉を操れないでいた。

 勢いで言う文句ならいくらでも言えるのに…そんな恨めしい気持ちでいるとエルが落ち着いた声で話す。

「ちょっと実力行使が過ぎましたね。乱暴してすみませんでした。でも杏さんにはちゃんと話したいんです。 」

 頭をポンポンとするともう一度ぎゅっと抱きしめた。
 そして抱きしめた手を離すとまた話し始めた。

「結菜さんは…前のお昼に圭佑さんとたまたま会った時です。圭佑さんと杏さんが見つめあっていた時に、僕のポケットに紙を入れてきました。」

 見つめあっての部分には納得がいかないものの、あんな一瞬でエルを誘う結菜ちゃんって…。

「紙には、いつでもいいから同じ場所で会おうと書かれていました。いつ来てもあの場所にいるからと。
 僕も気にはなったので会うことにしたんです。それでお昼にレストランへ行って何度かお昼に会いました。」

 何度か…。私がお昼はどうする?ご飯食べてないんでしょ?と心配しても断っていたのは、そのためなのか。心配して馬鹿みたい。

 杏はやりきれない思いに手を握りしめた。

 強く握る手の平には爪が食い込んで痛い。でもその痛みですら、胸の痛みを紛らわすことはできなかった。

「そしてレストランでは大切なことを話せないからと改めて今夜あの公園でと言われて。」

 何故こんな告白をわざわざ聞かないといけないんだろう。アパートの壁の白さに今まで感じたことのない圧迫感を感じた。

「それで彼女は…。」

 沈黙するエルに、どうせ結菜ちゃんに僕のことが好きだと言われたとか一目惚れですって言われたと報告を受けるのだろう。

 何故こんなことを聞かなきゃいけないんだろう。
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