運命の人はいかがいたしますか?
 お昼。エルは「今日も用事がある。」と言っていたが、杏はレストランに来ていた。

 手が透けたことが気になって、誰か分かる人がいないか考えた時に一人だけ思い浮かぶ人がいたからだ。

「この前は変なところを見られちゃって。」

 目の前に結菜が立っていた。

「やっぱりここにいれば会える気がしたの。今晩、会えないかしら。」

 杏の質問に「え〜。」と可愛く困った声を出す。

「分かりました。じゃぁこの前の公園で!楽しみにしていますね。」

 可愛くウインクすると去っていった。

 結菜に会うことがいいことなのかは分からなかったが、ここにいて本当に会えたことはやっぱり何かあるんだと思わずにいられなかった。


 仕事が終わるとこの前の公園へ行く。

 夜の公園は静かで少し気味が悪い気がしたが、その静けさが杏は好きだった。
 木々がサワサワとそよぐ。

 変質者とかイチャつくカップルとかいなければ毎日ここに来たっていいのになぁ。
 そんなことを思っていると暗闇の中から結菜が現れた。

「こんばんは。夜の公園に来るなんて勇気ありますね。結菜こわ〜い。」

 職場の美優も可愛い女の子だが、結菜は何かが違った。
 何故か嫌悪感のようなものを感じる。

「ハハッ。あんたにこんなことしても無駄よね。」

 がらりと変わった声と顔つきで結菜は話し始めた。
 それでも杏は驚かなかった。

 何か裏があるような雰囲気を感じ取って嫌悪感を感じていたせいなのかもしれない。

「あんたんとこの天使も食えないやつよね。天使でさえも私の可愛さに虜にさせることくらい簡単なのに「杏しか興味ない。」ですって。」

 突然の変わり様よりもエルのセリフに赤面すると結菜は馬鹿にしたように笑う。

「ハハッ。純情でよろしいこと。でも残念ながら天使と人間の恋は大罪よ。」

「え…。」

 今まで天使なんて信じていなかった。

 でも手の透けたエル。そしてこんな悪態をつく結菜までもが天使が存在する前提の話ぶりに信じるしかなかった。
 それなのに…。

「罪を犯せば永遠の命は削られるわ。下手すれば死…。
 あの天使だって分かってるわよ。人間に恋することは大罪よって言ったら「分かってる。」って。
 天使も悪魔もそんなヘマしないわ。永遠の命よ。そう容易く手放したりしない。」

 分かってるって…。

 傷ついた顔つきの杏を見てニヤリとして続ける。

「なのにどうしてあんなに優しいのか教えてあげる。強情な人こそ効き目があるのよ。
 大切な誰かを失う喪失感。あなたに信頼をされたところでフッと消えるのよ。
 私たちがよく使う手ね。そしたら誰かに寄り添いたくなるもの。」

 消えかかった手…。そういうことだったのか。
 杏の納得した顔に満足したように結菜は立ち上がった。

「欲しい答えが得られたみたいね。じゃ私はまた男を誘惑しなくちゃいけないから。」

 バイバーイと手を振ってまた闇に消えてしまった。
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