運命の人はいかがいたしますか?
 異変に気づいたエルが飛び起きるように杏の前に座った。

「ど、どうしました?すみません。なんかいい夢見ちゃってて気付くの遅くなっちゃって…。」

 もごもご言うエルにおかしくて泣いているのに笑えてしまう。

「あれ。笑ってるんですか?杏さん?電気つけていいですか?」

 パチンと電気がつけられてエルの困った顔がよく見えた。

「もう。エルの馬鹿。」

「え?えー?」

 困惑するエルに馬鹿は私だと心の中で思う。

 こんなに純粋なエルが人を騙すなんてそんなことするはずない。
 仕事かもしれないけど、騙すなんてそんなこと…。

「ねぇ。いい夢ってどんな夢?」

「い、いや〜。」

「何?」

「夢だから怒らないで下さいよ。」

「だから何?」

「杏さんが…杏さんからぎゅっーて。」

 うわっエルの顔が真っ赤。

 夢を思い出したのか顔を赤くして恥ずかしそうに目をそらす。

 目を丸くした杏は「もう。」と言ってエルに抱きついた。

「え、えぇー!杏さん…。」

 いつも散々、抱き寄せたりしてるくせにエルは自分の腕をどうしていいのかジタバタしているようだった。

 胸にうずめた顔をエルを見上げるようにあげると、真っ赤なエルの顔がすぐ近くにあった。
 口に手をあてて困ったように言う。

「杏さん…。その…可愛い過ぎてやばいです。」

 可愛いのはエルよ。

 と言わんばかりに杏はまたぎゅっーとした。
 エルも迷っていた腕を杏の背中に回してぎゅっとする。

 少し抱きしめあった後、エルがもごもごと口を開く。

「あ、あの…。今日は一緒に寝るの…無理です。」

「え…どうして?」

「あの…。その…。すみません。ちょっと頭を冷やしてくるので寝てて下さい。」

 そう言うとそっと手を離して部屋を出ていくとガチャガチャと手元がおぼつかない感じの音がしてバタンとドアが閉まる音がした。

 寂しく感じて腕を抱きしめるとまたすぐにガチャガチャバタンと音がしてエルが部屋に入ってきた。

「僕、最低です。杏さん一人にして…。泣いていたのに。」

 また杏の前にストンと座ったエルにおかしくて笑う。

「もう大丈夫だから寝ましょう。」

「いいんですか?大丈夫ですか?」

 戸惑うエルをそのままに杏は先に布団に背中を向けて入った。
 エルも布団に入るといつもみたいに背中をくっつける。

「エル?」

「ん?なんですか?」

「ううん。なんでもない。おやすみ。」

「おやすみなさい。」
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