運命の人はいかがいたしますか?
第36話 消えていた記憶
 さっきまでそこにいたはずのエルの姿は跡形もなく消えてしまった。
 放心状態の杏の耳にインターホンが響く。

 ピンポーン。

「松永智哉の代理の者じゃ。」

 急いで扉を開けるとそこには老人が立っていた。

 先輩って前の感じの悪い先輩じゃなかったんだ。
 そんなどうでもいいことを思って部屋に入れると無意識にお茶を出す。

「ほほぅ。こりゃ若いのによくできたお嬢さんだこと。」

 感心した様子でお茶をすする老人は優しそうな白髪のおじいちゃんで、この人も天使なのだろうかと不思議に思う。
 それでもエルの消えた手がかりはこの人しかいない。

「そんなことはいいんです。エ…智哉はどうしたんでしょうか。
 もう会えないなんてこと…。」

「おやおや。ちゃんと聞いておらんかね。
 では、ちょっと失礼。」

 おじいちゃんの手が杏の手に触れると記憶が溢れるように流れてきた。
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