運命の人はいかがいたしますか?
「大好きな杏さんへ。
この手紙が読まれることがあるのか分からないけど、読んでもらえることを願って書きます。」

 エルだ…。確かに文字も文章もエルのものだった。いつの間に手紙なんて…。

「僕は運命の人をみつける手伝いをする、会わせ屋という天使の仕事をするのは初めてで…。
 杏さんには本当にご迷惑をおかけしました。」

「本当よ…。」

 そうつぶやくと何故だか今さら涙が出てきた。

 こんな改まった手紙を読んで現実のことなんだと思い知らされている気がしたせいなのかもしれない。

 涙でにじむ風景の中でエルが笑っている気がして、泣いてちゃダメね。せっかく書いてくれたんだもの。読まなくちゃ…。
 と涙を拭いた。

「僕の初めての仕事の担当が杏さんで本当に良かったです。
 担当する前に教えてもらっていた杏さんよりも実物の杏さんの方が断然きれいで可愛くて、ちょっぴりこわかったけど。
 でも本当はすごく優しくて。」

 もう一言余計なのよ…と微笑む。

「意地っ張りで、それなのに泣き虫で」

 何よ、この際だから悪口を言ってやる!って感じかしら。
 そう苦笑していたが、続きを読むと目を見開いた。

「泣き虫なんて僕しか、きっと知らないよね。そんな僕しか知らない杏さんを他の人に見られたくない。
 まだ知らない杏さんの顔をもっともっと見たかった。そんな僕の知らない杏さんを他の人に取られたくない。」

 手紙なのに赤面する杏は先を読み進める。

「でも…。僕の本当の気持ちをここに書いてしまったら、杏さんと話す前にさよならになってしまう。
 そんなのは嫌だ。ううん。さよならをしたくない。ずっと杏さんといたい。」

 杏はまた涙がこみ上げると、その先を読めなかった。

「エル…。エル…。」

 何度呼んでも、もういないことは杏にも分かっていた。

 ボロボロの顔をもう一度拭いて続きを読む。エルの思いをちゃんと受け止めたかった。
 そしてエルの気持ちを知りたいと思った。

「僕の本当の気持ちを自覚してしまったら、さよならが来ることは分かっていました。でも後悔していません。」

 いつも真っ直ぐな物言い、行動。
 真っ直ぐなエルがこの手紙の中にもいた。

「もしもいつか生まれ変わる時がくるなら、また杏さんを抱きしめてもいいですか?
 眠る時の杏さんの背中を予約しておいてもいいですか?」

 馬鹿ね。エル。いいに決まってる。

 次に抱きしめられる時は私からもちゃんとぎゅってしてあげる。
 そしたらきっとエルは真っ赤な顔になるんだろうな。

「でもその時はお互い人間がいいな。犬同士だって構わない。いっそ天使だっていい。
 杏さんと一緒なら永遠の命だって、ずっと楽しいに決まってる。」

 禁断の恋…。その響きは魅惑的だ。でも実際は…当事者は生半可なものではなかった。

「杏さんのハンバーグも予約ですよ!結局、食べられなかったなぁ。
 美味しいだろうなぁ。絶対に約束ですからね。約束…。」

 分かってる…。約束よ。

 杏は寂しそうに約束の文字を見る。もう二度と守られないのにする約束…。
 そう思っても書かずにいられなかったエルを思うとやりきれなかった。

「本当に今までありがとうございました。
 杏さんは可愛くて優しくて、とっても素敵な女性です。僕が保証します。
 僕に保証されても嬉しくないかな?」

 そんなことないよ…エル。

「だから素敵な出会いがあるはずです。必ず幸せになってください。
 運命の人を見つけて幸せになってください。」
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