運命の人はいかがいたしますか?
 何、言っちゃってるのよ。

 ここまで甘いこと言っておいて、はいそうですかって運命の人を探せっていうの?
 おかしくて笑いそうになる口元は、続きを見てきゅっときつく結ばれる。

「運命の人をみつけたお客様は天使の記憶をなくすことが決まりなんです。
 そうしないと天使がいるって大騒ぎになっちゃうからね。
 僕のことが運命の人をみつけることに邪魔になるのでしたら…。」

 何を馬鹿なことを…。エルからそんなことを言われていると思うと悲しくなる。

「でも…そんなの嫌だ。僕を忘れないで。
 こんなこと言っちゃいけないと思うんだけど…お願いだから僕を忘れないでください。
 僕以外の人にその可愛い笑顔を向けないで。」

「エル…。」

 もう手紙は残り数行だった。

 早く読みたい気持ちと、読んでしまったら全てが終わってしまうのではないかという気持ちに揺れる。

 でも…少しでもエルを感じたかった。覚悟を決めて読み進めた。

「こんなことを書いても読んでもらえるのかな。読んでもらえても、その記憶は消されてしまうのかな…。
 それでも短い時間でも杏さんと一緒に過ごせて僕は幸せでした。今までありがとう。
 智哉ガブリエル」

 杏はそっと愛おしそうに智哉ガブリエルの文字をなぞった。

 枯れ果てたと思えるほどに流した涙だったはずなのに、また後から後から溢れてきていた。

 杏は手紙を抱きしめると、ずっとずっと泣いた。
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