君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
……と、明るい希望を抱いてみたけれど、やっぱり現実はそうそう旨くは行かないらしい……。
「片桐さん!さっき頼んでた書類、揃えてくれてる?」
「…あ、はい。今やってて、あともう少しで上がります」
「急いでよぉ〜。総務じゃそれでいいかもしんないけど、ここでそんな調子じゃ困るんだよぉ〜」
「……す、すみません」
結乃が着くことになったのはオジサンの営業マンで、人使いがとても荒く、慣れない仕事に四苦八苦している結乃に無理難題を求めてくる。
これでは、敏生とコミュニケーションどころではない。それに、営業マンはオフィスにのんびりなんてしていない。敏生の一日の大半は外回り、帰ってきても営業会議。その姿をなかなか見ることさえできなかった。
仕事ができる人間のところにはますます仕事が集まるもので、敏生は〝できる人間〟なのだろう。オフィスの自分の席に戻ってきても、ほとんど休憩を取ることはない。インフルエンザで休んでる同僚の分の仕事までこなしているのだろうか、同じチームの事務職員が帰った後でも、ずっと残って仕事をしているようだった。