君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)



仕事を完璧にこなし、行き詰まったときに突破口を開いてくれる敏生とは、篠田さんに限らず、誰でも組みたがる。発想力や情報処理能力など、敏生のその能力は営業職に留まるものではなく、いずれは会社を背負って立つ立場になるに違いなかった。


――でも、私には、芹沢くんと対等に仕事ができる能力なんてないし……。


それを思うと、敏生がとんでもなく遠いところにいる人間のように思えてくる。
そうやって、どんどんネガティブになっていきつつある思考を、結乃は無理やりに遮断した。


――私には私の、やらなきゃいけない仕事があるんだから、頑張らなくちゃ!


結乃は気合いを入れ直した。それでなくても六月は株主総会があるので、この時期の総務部は結乃のような下っ端もてんてこ舞いの総力戦だ。


「片桐さん。この荷物、間違えてこっちに来たみたいなんだ。倉庫に置いとくらしいから、一緒に運んでくれる?」


それから数日後のこと。総務課同期の北山が、廊下に積まれたダンボールを指差して、いつものように雑用を頼んできた。


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