君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
それから、二台の台車にそれを載せて、二人で階下の倉庫まで運ぶ。こんなことが、もっぱら結乃の仕事。でも実のところ、デスクワークより結乃の性に合っていた。
……一緒に仕事をするのが北山ではなく、敏生だったら……と思わなくはないけれど、敏生には敏生のやるべきことがたくさんあるはずだ。
エレベーターを待っていた時、総務の方に何か用事があったのだろうか、例の篠田さんと一緒になった。
「あら、大変ね。何の荷物?」
企画を仕事としている彼女は、なんにでも素直に興味を示す性分らしい。彼女の質問に、北山が答えた。
「株主総会のお土産です。倉庫に運んでもらうはずが、間違えて一部が総務のフロアへ届けられてしまって…」
「へえ?お土産って、何?ずいぶん重そうだけど?」
「お米、だって言ってました」
「ええ!?お米?そんな重たいもの配ったら、株主たちも迷惑なんじゃない?もっと軽くて気の利いた物もあるでしょうに」
このお土産の品を選んだのは、もちろん北山や結乃ではない。だけど、この言葉に北山はカチンときた。