君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
「このお米は、経営企画室の古川室長代理が進めてるプロジェクトで生産された完全無農薬で有機栽培の米で……」
と、口を尖らせて言い返していたところに、エレベーターが到着した。結乃が台車を押す素振りを見せると、篠田さんはそれを牽制した。
「悪いけど、その台車乗せてると時間かかるから、次のエレベーターを待ってくれる?ちょっと急いでるの。新しい企画のことで芹沢くんを待たせてるのよ。遅くなったら、また彼に叱られちゃう」
と言いながら、篠田さんはそそくさとエレベーターに乗り込み、すかさずボタンを押してドアを閉めた。
残された結乃は呆気にとられるばかりだったが、北山はその怒りをあらわにした。
「なんだ、アレ!自分の方がババアのくせに『彼に叱られちゃう♪』だって。ちょっとイイ男にはシッポ振りやがって。どうせろくでもない企画、相談してるんだろうよ!!」
結乃も北山の怒りはもっともだと思った。けれど、その言葉の中に聞き捨てならない部分があった。