君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)

・ 勇気を出して




どんなに頭の中で甘いラブストーリーを思い描いていても、現実で何もしなければただの空想でしかない。勇気を出してチョコをあげたり、思いがけずマカロンをもらったり、そんなことがあっても結局何も変わっていない。

もっと敏生に近づきたいのならば、〝告白〟というもう一段高い場所に踏み出さないとならないのだろう。


――だけど……、こんな私が芹沢くんの彼女になれる?そもそも、芹沢くんはこんな私を、好きになってくれる?


敏生のことはこんなにも好きだけれども、結乃は物怖じしてしまう。敏生の隣に立つためには、見た目も中身も、自分はどうしようもなく器量不足に感じられた。


――去年までは、芹沢くんの姿を見かけるだけでも嬉しくて、ドキドキしてたのに……。


『もっと、もっと…』と、分不相応の願望を抱いてしまうから、こんなにも胸が苦しくなる。それでももう結乃は、ただドキドキしていただけの去年の自分には戻れなかった。


雲に閉ざされた梅雨の空。暗く垂れこめて雨が降りだすように、結乃の心も悶々として晴れ渡ってくれなかった。唯一の救いは、株主総会前でボーっと物思いに耽る時間もなかったこと。


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