君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
〝取りつく島がない〟とは、まさにこのこと。敏生を見ていても、とても話しかけられるような雰囲気ではない。
これでは、合コンどころか、職場の女の子とも満足に話をする暇なんてないだろう。女の子との浮いた話がないのも納得できる。
ましてや、総務からちょっと手伝いに来ている女子のことなんて、気に留めるに値しない。
それでも、そこに敏生がいてくれるだけでよかった。オフィスを横切る彼を目で追って、デスクワークをする彼を視界の端に捉えて……。普段の敏生を知ることができただけでも、結乃の心はドキドキと甘く脈打ち、その後ほんのり温かく満たされた。