君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
「芹沢くん、商品企画部の篠田さんと組んで社長賞狙ってるって、会社で噂になってるね」
不快な話題だったのだろうか。敏生は結乃の言葉を聞いて、ウンザリしたように表情を曇らせた。気持ちを解すどころか不快にさせてしまって、結乃のなけなしの勇気も怯えてしまう。
「変なヤツに目をつけられて、迷惑してるよ。」
そう応えてくれた敏生の声色が、思いのほか穏やかなことに、結乃は胸をなでおろす。
「……篠田さん、変な人なの?」
「変って……、とにかく突拍子もない企画を考えるようなヤツだよ」
敏生は本当に迷惑しているのだろう。ため息混じりに語る様子に、それがにじみ出ていた。
「芹沢くんの能力が突拍子のないアイデアに加われば、すごい企画になって、社長賞も夢じゃないって思ってるんだろうね」
「付き合わされる方は、たまったもんじゃないよ」
「そうは言っても、芹沢くんは見捨てたり、いい加減な対応したり、できない人でしょう?社長賞はともかく、その企画が実現できたら、きっと会社のためになると思う。芹沢くんは、それができる人だと思う」