君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)



普段は遠い場所にいて、言葉を交わすこともない。いつも心の中でかけている励ましの言葉を、結乃は今こそ、心を込めて敏生に投げかけた。

どんな状況でどんな相手にでも、敏生は真摯に向き合って最善を尽くそうとする人だと、結乃は信じていた。そうでないと、可哀想な捨て猫を拾ったり、夜に雪の中を歩いて届け物をしたりできるわけがない。


結乃が語るのを、敏生は傘の持ち手を握りながら黙って聞いて、もう何も言葉を返さなかった。ただ一つ大きな息をつく。それは、ウンザリしたため息ではなく、何か決意を秘めた深いものだった。


その話題が尽きて……、また会話がなくなった。

敏生は、なにを考えているのだろうか…。
黙々と歩き続けている敏生は、嬉しそうでも楽しそうでもない。さっきの結乃の持ち出した話題が、やっぱり気に障っていたのだろうか…。


――何も分かっていない私が、偉そうなこと言っちゃったかも……。


そんな自己嫌悪が思いの中に立ち込めてくると、結乃は息苦しくなって、胸の鼓動が不穏に乱れてくる。せっかく敏生と並んで歩けているのに、逃げ出したいような気持ちに駆られた。


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