君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
そんな結乃の状況に気づいた敏生は、その表情から笑みを消し、まるで何かに耐えているようにキュッと唇を噛んだ。
そして、濡れていた結乃の肩をそっと抱き寄せて、傘の中に入れた。
「え…!?」
敏生の思いがけない行為に、結乃は必要以上に反応してしまった。心の中だけでなく体全体が、ビクッと跳ね上がる。そのはずみによろけてしまった結乃は、敏生の足を思いっきり踏んづけてしまった。
「あぁっ!……ごめんなさいっ!!」
足元を確認しながら、結乃は焦った声をあげた。
「いや、大したことない。君こそ、大丈夫?」
と言いながら、敏生は結乃を覗き込んだ。
「うん、私はだいじょう…」
結乃が答えながら、顔を上げた時だった。
「!!?」
結乃の顔と敏生の顔がぶつかった。
ぶつかった……というより、ちょうど唇と唇が触れ合っていた。
薄闇の中、至近距離で見つめ合い、固まってしまう。
今起こってしまった現象がどういうことなのか、どんな風に反応していいのか分からなかった。