君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)

・ もう一つの記憶




結乃が営業1課に手伝いに来て、3日目の退社時刻を過ぎたころのことだった。業務とは関係ない、ちょっとした騒動が起こった。

誰がやらかしてしまったのだろうか、オフィスの隣の給湯室でお茶っ葉が派手にまき散らされていた。


「誰がやったの!!?」


お局を通り越したオバサンのベテラン事務員が、角が出らんばかりに怒っている。だけど、誰も知らんふり。


「ホウキって、どこかにありますか?」


結乃が周りの女子社員に問いかけてみても、


「あんなに騒がなくても、今日はこの後清掃業者が入るんだから、キレイにしてくれるわよ」


と、傍目で見ながら他人事とばかりに更衣室へと向かう。

こんな時、総務の方のオフィスにいたら、すぐにホウキを持ってきて掃除するところだけれど、慣れない部署だと勝手が違う。結乃はフロア中をあちこち走って、非常口のドアのわきにある掃除用具のロッカーを探し当てると、ホウキと塵取りを持って戻ってきた。

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