君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)


そうやって敏生が人知れずため息をついている間も、会社は敏生を放っておいてはくれない。外回りを終えてきてからも、携わる複数のプロジェクトの打ち合わせが息つく暇もなく入っている。


副社長肝いりの大きなプロジェクトにも、その一員として大抜擢されたばかりだ。このプロジェクトが首尾よく成功すれば、敏生の出世街道の最短ルートがより明白に見えてくるはずだ。

この日も経営企画室のある上階で会議があった。取り仕切るのは副社長の腹心の部下である室長補佐の古川さん。入社以来一足飛びに昇進を重ねた、敏生のお手本となるような人だ。

その古川さんを筆頭に、関連する各部署の精鋭が招集されている。会議のテーブルに着いて敏生は初めて気が付いた。営業部からは敏生のほかになんと〝あの〟鳥山もメンバーの一人になっていたことを。

後輩のフォローもせず雑多な仕事は全部周りの人任せ、おまけに仕事よりもデートを優先させる鳥山には、敏生も何度煩わされてきたか分からない。けれども、相手を口説き落とす口の巧さや手練手管の巧みさだけは、さすがの敏生もかなわなかった。まさにその能力を買われて、鳥山はここにいるのだろう。

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