君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
二人でお茶っ葉を一か所に集めると、結乃が持つ塵取りに、敏生がそれを掃き入れてくれる。
こんな〝共同作業〟ができるのも、同じ部署にいるからこそ。あまりの幸運に動揺してしまって、結乃の塵取りを持つ手も震えてしまう。
「忙しいのに、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げる結乃に、敏生は笑いかけることもなく、こう答えた。
「同期なんだから、俺に敬語を使う必要はない」
「……え?」
結乃が目を丸くして、敏生を見上げる。
「私のこと、……知って?」
あまりの思いがけなさに、結乃の言葉も途中で途切れてしまう。
「君は、こんなところ、昔と全然変わらないな」
と言いながら、敏生はホウキを結乃に渡してくれる。
「昔と……?」
と結乃が再び問いかけてみても、敏生はそれに答えることなく、くるりと背を向けてオフィスへと戻っていってしまった。
敏生の背中を目で追って視界から消えても、結乃はホウキを持ったまま、敏生の言葉の意味を考えた。