君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
――『昔』って、高校生の時のこと……?
大きな衝撃の後のドキドキとした胸の鼓動を伴いながら、ホウキをロッカーまで戻しに行った、そのとき――、
「あ……!」
今日の出来事がデジャヴと思えるような、その〝昔〟の出来事を思い出した。
高校生のとき、まだ敏生への想いが芽生える前のこと……。
結乃が生徒昇降口を出て帰っていたら、グラウンドからサッカーボールが飛んできて、通路わきに置いていた大きな植木鉢に当たって、ひっくり返してしまった。
幸い植木鉢には何も植えられていなかったが、ボールを追ってきたサッカー部員は、ボールだけ持って、飛び散ってしまった土はそのままにして行ってしまった。
一部始終を見ていた結乃は、しばし呆気にとられていたが、ハタと目の前の状況に気づいてしまう。そして、ため息をつくと、掃除用具入れからホウキを出してきて、飛び散った土を集め始めた。
すると、結乃とは反対方向から同じように土を掃き集めてくれている男子がいる。その男子は、最後まで結乃に付き合ってはくれなかったが、ある程度土を集めたところまで一緒にやってくれて、気づいたら風のように姿を消していた。