君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
「申し訳ありませんっ!!」
緊迫した場面なのに、自分のしでかしたあまりの失態に、結乃はパニックになって、どうすればいいのか分からなくなる。
「失礼をいたしました。火傷をなさっていませんか?」
すると敏生が立ち上がって自分のハンカチを取り出し、それで女性の濡れた髪や肩を拭き始める。課長も焦って、側で呆然と立ちすくんでいる結乃を見上げて、指示を出した。
「早く、タオルをお持ちして」
結乃は「はい」という返事もままならず、深々と一礼すると、応接室を後にした。懸命に走って戻り、あのベテラン事務員に助けを求める。
「なにやってるのー!」
と、もちろん怒られたけれど、ベテラン事務員はすぐにタオルを出してくれ、結乃がそれを持って応接室に戻る間に、お茶を淹れなおして出してくれた。
それから、応接室での話し合いはどうなったのか……。
結乃が胸が押しつぶされそうな思いを抱えて待っていると、しばらくして悄然とした課長や敏生が戻ってきた。