君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
「結乃。ちょっとお使いに行ってきてくれない?隣町まで、竹屋のお饅頭買いに」
遊びに行く予定がなくなった土曜日の午後、手持ち無沙汰な結乃を捕まえて、母親がお使いを頼んできた。
「えー……。隣町まで?」
気持ちが重いと、なんだか体まで重たく感じられて、やっぱり結乃は気が進まなかった。だけど、家にこもっていても、鬱々として気が滅入るだけだ。
窓の外へ目をやると、清々しいほどにスッキリとした青い空が広がっている。結乃は散歩がてら、お使いに行くことにした。
季節は、結乃の心を置き去りにして進んでいる。燦々と降り注ぐ柔らかく明るい日射し、芽吹き始める道路脇のタンポポ。街のどこかしこに春の息吹が感じられて、結乃はもっとそれを探し求めるように公園へと立ち寄った。
木々が生い茂り、ランニングコースや芝生の広場があって人々が憩える場所。隣町とはいえ、これまで結乃はここへ来る機会がなく、とても新鮮な気持ちで公園の中を散策した。