君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
「ユノ!こんなところで何してるんだ?」
そのとき、背後からそう声をかけられて、結乃の心臓が跳ね上がった。
驚きで満たされた結乃の心が、その声に反応して、切なく震える。
聞き覚えのある、この声――。
結乃が振り返ると、先ほどまで結乃の腕にいた猫が、明るい日射しの中で跳ねて行って、ランニングをしていたらしい一人の男に駆け上る。
「ここも、お前の遊び場なのか?ユノ?」
愛おしそうに猫を抱いて、優しい声をかけている男性に、
「……芹沢くん?」
結乃は、思わず言葉をかけていた。
敏生は驚いた顔をして、結乃へと視線を合わせた。
思いもよらず、そこに結乃がいることに気がついて、いつもはクールな敏生の顔が、一瞬にして真っ赤になる。
「その猫の名前、ユノって言うの?」
結乃と同じ名前なのは、偶然の一致なのだろうか?それとも……?
結乃に問われても、敏生は赤い顔のままユノを抱き、じっと結乃を見つめるばかり。その視線に戸惑って、結乃の頬も熱を持ち始める。