君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
「で?本命チョコ、誰かにあげるの?」
空気を読まない北山が話の続きを促して、結乃は答えに窮してしまう。営業一課の営業マンたちも無言だけれども、面白そうな話題に聞き耳を立てている。
「あげる人いないんだったら、俺にちょうだいよ」
「……えっ!?」
とんでもないことを言い出した北山に、結乃が目を剥く。
と同時に、エレベーターが営業一課のあるフロアに到着する。ここで降りていく営業マンたち。その中にいた敏生が、エレベーターの扉が閉まる間際に振り返った。
驚いたような敏生の目。それを見てしまった瞬間、また結乃の心臓が跳び上がった。
――……せ、芹沢くん!誤解しないで!!
結乃は心の中で叫んでみたけれども、念力でもなければそれは敏生には伝わらない。
そう、心の中でどれだけ想っていても、想うだけでは永遠に相手には伝わらない。それは、嫌というほど結乃にも分かっていた。
「……本命チョコは、あげる人いるの。だから、残念でした」
再びエレベーターで北山と二人きりになって、結乃は覚悟を決めるように断言した。