君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
・ 社員食堂
バレンタインデーには、敏生にチョコをあげる――。そう決意した結乃だったが、実は、この決意をしたのはこれが初めてではない。
高校二年生のとき、敏生への想いを自覚した直後のバレンタインデーのときに、チョコをあげようとしたことがある。
けれども、その時も遠くから見つめることしかできなかった結乃は、その恋を親しい友達にも打ち明けていなかった。友達の協力も得られず、敏生に近づくことさえできず、結局用意したチョコはそのままカバンの中……。
家まで持って帰って、父親と二人で食べてしまった……。
あの時みたいになりたくない……。
苦い思い出を胸に、結乃はその日からチョコを作る練習を始めた。仕事の合間に、課長の目を盗んでネットで作り方を調べ、家に帰ってから夜遅くまで試作を重ねた。
デパートで売っている綺麗で美味しいチョコの方がいいかな…とは思ったけれど、自分はそんなガラじゃないし、もし最初で最後になるのなら悔いのないようにしたかった。