君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
いつもは遠くから見つめるだけの敏生…。
隣にいられるだけでも、結乃の胸はいっぱいになってしまうのだけれど、せっかくのチャンスを無駄にしたくない。早く話しかけないと、敏生は食べ終わって席を立ってしまう。社食の中のざわめきにも急き立てられて、結乃の焦りは募った。
必死で当たり障りのない共通の話題を探し、『最近、芹沢くんちのネコちゃん元気?』と、話しかけようとした矢先、
「片桐さん、社食で食べてるなんて、珍しいね!」
空いていたテーブルの向かいに、同じ課の北山が座って声をかけてきた。
「…うん」
無視するわけにもいかず、結乃は敏生への言葉を飲み込んで返事をする。
「経理課の方から備品のチェックを頼まれてるんだけど、午後から手伝ってくれる?」
気安く頼みごとをしてくる北山だったが、結乃は隣にいる敏生のことが気になって、気が気ではない。
「どうして、私にばかり頼んでくるの?他にも後輩とかいるじゃない?」
敏生に誤解されたくないので、そうやって突き放してみるけれども、北山は屈託のない笑顔を見せて答える。