君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
「高校生じゃあるまいし、バレンタインで浮かれてるなんて、どうかしてるんじゃないのか?そもそも俺は、チョコなんて大嫌いなんだよ!」
敏生はそう言い捨てると、トレーを持って立ち上がった。そこに残された河合と結乃と、それから北山と、なんとなくイラついてる敏生の後ろ姿を見送る。
「……俺、何かいけないこと言いました?」
河合から尋ねられて、結乃は首を横に振ってあげた。でも、そのことよりも、結乃の心の中はもっと不安でいっぱいになって、目の前が真っ暗になってしまう。
――……芹沢くん。チョコ嫌いだって言ってた……。
チョコなんてあげてしまったら、告白するどころか、〝嫌がらせ〟くらいにしか思ってくれないかもしれない。
別にバレンタインにこだわらなくても、告白くらいいつだってできる……。
弱気になってしまった結乃は、そう思い直して、敏生にチョコをあげることをやめようかと考え始めた。
でも、そうしてしまうと、いつまでたっても結乃は告白も何もできず、多分今までのままで何も変われないだろう。