君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
・ 通勤電車
バレンタインデーも二日後に迫り、結乃は退社後、チョコのラッピングをするための買い物をして帰ることにした。
敏生にチョコを渡すかどうかは、まだ迷っていたけれど、とりあえず準備だけはしておこうと思っていた。
こうして、敏生のことを想っていろいろ準備をするのは、不思議な気分だった。胸がドキドキして、甘くて苦しくて……そして少し怖くて。それでも、何か湧き出してくるものに突き動かされて……。
お店を渡り歩いて街を放浪し、買い物に手間取ってしまい、すっかり遅くなってしまった。
普段とは違う時間帯の電車に、小走りで乗り込んだとき、同じように閉まるドアに駆け込んできた人がいた。
お互いにお互いの顔をチラリと確認し合って、
「……あ!」
結乃と敏生は、同時に小さく声を上げた。
同じ高校に通っていたくらいだから、同じ路線を使っていても不思議ではないけれど、同じ電車に乗り合わせたのは、これが初めてだった。
敏生に気を取られた結乃が、電車の揺れによろめくと、敏生がちょうど二人分並んで空いている席を指さした。