君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
・ 前途多難
そして、いよいよ決戦(?)の日のバレンタインデーが来てしまった。朝からどことなくソワソワしている男性陣。
結乃の職場でも、「バレンタインは何もしないようにしよう」と意見が出たこともあるが、男性たちはやっぱり期待をしているし、肩身の狭い思いをしなくて済むように、女性陣は申し合わせてささやかな物を送るようにしていた。
「…ちぇっ、やっぱ義理チョコか…」
と、少々不満気味の北山は別として、大したことのない物を渡しても、嬉しそうにしている課長やその他の同僚たちを見ていると、職場を良い雰囲気にするひとつの方法にはなっているようだ。
一通りの〝儀式〟が終わっても、やっぱり男女ともどことなくソワソワと落ち着かない。これは、本命をいつ渡そうか、いつ渡されるか、様子を窺っているからに他ならない。
その点、結乃は前もって敏生と約束できていたから、そんな人たちをよそ目に、ちょっとだけ余裕があった。
…でも、その日の午後のこと。女子トイレで同僚たちがしている雑談が、結乃の耳に入ってくる。
「さっきね。営業一課にいる友達から聞いた話なんだけどね?芹沢さんって、長身のイケメンいるでしょう?」