君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)



おばさんが行ってしまって、時計を確認してみると、もうすぐ終電の時間になろうとしていた。
このまま、もう敏生は現れないかもしれない。仕事の目処がつかず、もしかして会社に泊まり込むつもりなのかもしれない。


結乃の固めていた決心も挫けてしまって、涙が零れて落ちた。
今は、頑張って作ったチョコのことなんて関係なく、ただ敏生に会いたかった。敏生に会って、あの少し優しくなる眼差しを、一目見るだけでよかった。


ひとしきり泣いても状況は変わることなく、結乃は涙を拭って帰ることにした。終電を逃して、駅で一夜を明かすわけにはいかない。


息を深く吸って、歩き出そうと顔をあげた時のことだった。

結乃の目の前に……、敏生が立っていた――。


「……もしかして、俺を待って……?メール、見てなかった?」


驚いた顔をして、敏生は焦っているような声で問いかけてくれる。結乃もそれに、首を横に振って答えた。


「ううん。…メールは、ちゃんと見たの」

「じゃ…、どうして?」


戸惑う敏生に、結乃は手に持っていた小さなペーパーバッグを差し出した。


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