君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
入社二年目は一年目の教訓を生かして、一切お返しをしないことにした。すると、これに納得のいかない一部の女性たちがいたらしい。
「フツーは、ちょっとしたお返しくらいするもんじゃないの?」
他の男性社員と比べて敏生のことを〝不実〟だという陰口は、敏生の耳にも入ってきていた。
『文句があるなら、一方的に押し付けてくるなよ』
言い分なら、敏生の方にも山ほどある。
陰口を言ってた奴を見つけ出して、論破したい気持ちが募ったが、そんな大人げないことはしたくない。そもそも、〝義理〟に見返りを求めてくるような奴を相手にするなんてバカらしい。
だけど、そんなこともあって、敏生はこのバレンタインという国民的行事に辟易し、本当に嫌いになった。