君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
・ 想い人
そして、今年もこの季節が来てしまった…。敏生の憂鬱は増すばかり。
常に脳天気な後輩の河合などは、バレンタインで一つでも多くのチョコをもらおうと、女子のご機嫌を取るのに忙しい。義理だったり、好きでもない子からもらうチョコを、なんでそんなに欲しがるのか、敏生には全然理解ができない。
…だけど、もし。好きな子がくれる想いのこもったチョコだったら、どうだろう?
そんなことを思った時、敏生の心に一人の面影が浮かんだ。決して目立ちはしないが、いつもマイペースで笑顔のとても可愛いあの子…。
実は、この〝女嫌い〟とも見える敏生にも、好きな人がいた。
同期で入社した総務部の片桐結乃…。彼女は、敏生の高校時代の同級生だった。
高校時代、サッカー部だった敏生がグラウンドで部活に勤しんでいた時、先輩の蹴ったボールがとんでもない方向に飛んで行ったことがある。
そのボールはグラウンド脇の通路を飛び越して、そこにあった大きな植木鉢に直撃した。植木鉢は転がり、激しく土が飛び散った。目の前で起こった惨劇に、目を丸くして固まっていたのが結乃だった。