君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)

・ 茶トラのネコ




結乃が敏生にほのかな恋心を抱いたのは、高校二年生のとき。

あれは、ちょうど今頃の季節、雪がちらつく寒い日。一人で学校の校門を出たときのことだった。

校門の横の植え込みの中に、茶トラの子猫を見つけた。そのあまりの可愛らしさに、結乃は思わず抱き上げてしまう。


「君、どうしたの?お母さんは?」


周りを見回しても、母親らしき猫の姿は見当たらない。迷子なのだろうか。それとも、捨て猫なのだろうか。

ニャーニャーと鳴く、か弱い声が可愛くて、こんな寒空の下に一匹で放り出されているのが可哀想で……、結乃はしばらく子猫を抱きしめたまま、その場に立ちすくんだ。


でも、結乃の住むマンションは、動物を飼うことが許されていない。内緒で飼ってしまうと両親にも迷惑をかけるし、部屋から出すこともできず、この子猫にとって快適な環境ではない。


「……ごめんね。私には、君を幸せにする力がないの……」


結乃はそう言いながら、車通りの多い校門前から校内へと子猫を抱いてきて、雪をしのげる掃除用具入れの隅へ自分のマフラーを敷くと、その上にそっと子猫を置いた。


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