君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
・ 約束
そもそも、何を都合のいい期待していたんだろうと、敏生は思い直した。
ただの知り合い程度の自分に、結乃がチョコをくれる理由がない。結乃が実は自分のことが好きで、バレンタインに告白してくれるなんて、妄想するにもほどがある。
相手が何かしてくれるのを待ってても、何も変わらない。現状を変えたければ、自分から動いて変えようとしなければ…!
だけど、河合や北山のように、自分からチョコをねだりに行くなんて…。
――…俺には、無理だ…。っていうか、俺がそんなことしても、『気持ち悪い』だけだろ…?
いずれにしても、バレンタインに臨む敏生の憂鬱は深くなった。仕事をバリバリこなして無心になっていなければ、やってられなかった。
そうやって仕事に励んで、いつものように帰途に就いたバレンタインデーの2日前。駅のホームに到着していた電車に駆け込んだ時のこと、
「あ…!」
偶然結乃と出会えてしまった。
〝知り合い〟同士だから、一緒にいるのは不自然ではないはず…。敏生が空いていた席を見つけると、二人は並んでそこに納まった。