君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
でも、敏生は結乃を意識してしまって、あいも変わらず緊張してしまう。すると、結乃の方から話しかけてくれ、上ずった意識のまま、とりとめのない会話をした。
しかし、会話が途切れると、敏生は内心焦りだした。こんな時、どうやって時間をつなげばいいのだろう…?
『恋愛も営業の仕事も似たようなものだ。相手が落ちてくれるように、誠意を示して言葉を尽くすんだから』
なんて、先輩のプレーボーイ鳥山が吹聴していたのを思い出したが、仕事とは全然違うと思った。
チラリと結乃の様子を窺うと、とても穏やかな表情で、電車の走るリズムに耳を傾けているようだ。敏生も同じように、心を落ち着けてみる…。
すると、遠くから見つめていた時には感じられなかった結乃の息吹が、敏生の中に染み込んでくる。彼女の細い指、彼女の息遣い、彼女の匂い――。
敏生がそれらをしみじみと噛み締めていた時、結乃の少し焦ったような声が響いた。
「あの…!芹沢くん…って。いつもこんなに遅くなるの?」
敏生の胸がドキンと大きく脈打った。