君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
結乃だった。
どうして彼女がここにいるのか、それを考えると、答えは一つしかなかった。
「……もしかして、俺を待って……?メール、見てなかった?」
敏生は結乃へ歩み寄って、声をかけてみる。すると、結乃は敏生の顔を確かめて、安心したような色を浮かべると首を横に振った。
「ううん。…メールは、ちゃんと見たの」
「じゃ…、どうして?」
敏生がさらに問いかけると、結乃は手に持っていた小さなペーパーバッグを差し出した。
「芹沢くんがチョコを嫌いだって知ってたけど…。どうしても今日、これを渡したくて…」
その中にある物。それはまさに、敏生の待ち望んでいたものだった。嬉しさのあまり、息が止まってしまう。
初めて好きになった人から、初めてもらうチョコレート。敏生はまるで表彰状をもらうかのように、ペーパーバッグを受け取った。
「…チョコ、実は嫌いじゃないんだ」
恥ずかしそうに敏生は、その事実を告白した。
そう、チョコだけじゃなく、本当はバレンタインデーだって嫌いじゃない。こうやって愛しい人が側にいてくれるだけで、こんなにも幸せで優しい気持ちになれるなんて…。
今日のことはきっと一生忘れられないだろうと、敏生は思った。この日から毎年のバレンタインデーは、敏生が心待ちにする大好きな日となった。
[ 第三話 完 ]
※ 3月のホワイトデーに合わせて、第四話の更新をします。
どうぞ、「しおり」はそのままで、引き続きお楽しみください!