君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
第四話 君と春の夜の雪
・ ホワイトデーの決意
営業1課の芹沢敏生は、とにかく仕事がデキる。大手のお得意様を何社も任されているにもかかわらず、どんどん新規開拓もしてくるミラクルな男だ。
別に、おべっかを使って媚びて回っているわけではない。細部にまで計算し尽くされた段取りと、自信に裏打ちされた無駄のないトーク、相手に対する細やかな配慮。そして、清潔感にあふれ、スッキリと整った容姿。敏生の手にかかれば、大概の案件はうまくいった。
女性たちは、そんな敏生をうっとりと見つめ、ため息を漏らす。あわよくば、敏生の〝彼女〟に納まりたいと思っている女性は大勢いたが、仕事に邁進する彼はそんな女性たちには見向きをしない。
バレンタインのチョコも、大量にもらったにもかかわらず、『ご自由に食べてください』と全て放棄してしまった。
その〝孤高〟ともいえる態度に、女性たちは凛々しさを覚え、いつしか敏生は〝誰にも落とせない男〟と言われるようになった。
「先輩、相変わらずスゴイっすね~。もらったチョコを全部あげちゃうなんて」
後輩の河合が、酔っ払ってそう言いながら、敏生に羨望の眼差しを向けた。