君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
そのバレンタインデー、この河合はかなりの失敗をしでかし、敏生はそのフォローをしてあげた。この日はその〝恩返し〟ということで、河合がご馳走してくれていた。
「欲しくもないものもらっても、処理に困るだけだからな。美味しく食べてくれる人にあげたほうが、いいだろ?」
敏生はウーロン茶を飲みながら、彼に取っての〝正論〟を主張した。すると河合は、羨ましいような情けないような顔をした。
「『欲しくもない』…って、うわー、俺も一度でいいからそんなふうに思ってみたい。俺なんて、やっぱり同じ部署の人たちがくれた義理チョコだけですよ。しかも、一人ひとりからじゃなく、数人でまとまって一個なんですよ?ひどくないですか?」
「へえ?あげる方も、もらう方も手間が省けて、合理的じゃないか」
「どこが合理的なんですか。向こうは数人で一個なのに、こっちは一人ひとりにお返しするんですよ?本当に割りが合いませんよ」
「それなら、いっそのこと俺みたいに、お返しなんかやめたらいいじゃないか」
この言葉の通り、敏生は去年からホワイトデーのお返しをやめている。