君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
「うわ!何言ってんスか!?そんなことしたら、来年からそれこそ一個のチョコももらえなくなるじゃないですか~!」
河合は酔っ払っているからか、ほとんど半泣き状態になった。どうしてそんなにバレンタインのチョコにこだわるのか、敏生には全く理解不能だった。
……しかし、河合にそんなことを言ってる当の敏生だけど、ただ一つ、大事に家まで持ち帰ったバレンタインのチョコがある。
初めて好きになった人から、初めてもらった特別なチョコ――。
敏生が高校生の時から淡い想いを抱いていた片桐結乃…。三年前、この会社に入って偶然再会したことで恋心が再燃し、彼女への想いはもっと深く切なくなった。
最近になって彼女と少し話しができるようになり、その結乃が初めてバレンタインのチョコをくれた。敏生にとってそれは、歴史的な出来事だった。
あの時のことを思い出すと、今でも心がキュンと震えて潰れてしまいそうになる。
手作りと思われるそのチョコを、敏生はしばらく飾っておいて眺めることに徹していた。もったいなくて食べられそうになかったが、ちゃんと食べることも大事なことだ。