君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
・ 特別な人
仕事中、普段は余計なことを考えない敏生だが、ふとホワイトデーのことが頭に過った。結乃に何を贈るべきか、それが敏生の目下の悩みだった。
難しい顔をし、頬杖をついて考え込む敏生。
誰も寄せ付けないオーラを醸すそんな仕草も、とても様になる。その姿を、同じ課で働く女性たちも遠目にうっとりと見つめた。
敏生の無意識に指が動いて、ノートパソコンの営業会議用の報告書を書いていた画面の上に、サイトの検索画面を開いて調べてみる。
いろいろと調べていくうちに、敏生はその内容に釘付けになった。やはり、直感で『いい!』と思ったものを贈るわけにはいかないようだ。贈るものによって、そこに込められている意味が違ってくる。
例えば、マシュマロは「あなたが嫌い」。クッキーは「友達でいましょう」。そして、キャンディは「あなたが好き」…。
――…ええ?!マジか!…ウソだろ?!
敏生は愕然として青ざめた。
確か、二年前のホワイトデーで、お返しに配ったものは〝キャンディ〟だった。どうりで〝彼女にしてもらえた〟と勘違いした女がいたのだと、今更ながらに冷や汗が出てくる。