君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
・ マカロンとキャンディ
三月も初旬が過ぎると、取引先を回る際に歩く街も、日射しも眩しく満ち溢れてくる。すっかり春めいてきた陽気のこの日、敏生は少し汗ばみながら会社へと戻ってきた。
……と、そのとき、敏生の心臓がドキンと反応した。営業1課のオフィスに、結乃がいるではないか。
総務2課の主任と営業1課の課長が話をしている側で、その内容を懸命に書き留めている。敏生はトイレへ行くふりをして、様子を窺いに近づいてみる……。
「お!ちょうどいいところに来た。芹沢くんの意見を聞いてみよう」
すると、ラッキーなことに課長から声をかけられて、話の輪の中に入れてもらえた。
かいつまんだ話を聞いてみると、なんでも福利厚生設備の見直しをするにあたって、社内の休憩スペースを一新することになったのだとか。各フロアに街のコーヒースタンドのようなコーナーを作る企画があるらしい。
「実は、こちらの片桐さんが出してくれたアイデアを、企画にしたものなんです」
総務の主任にそう紹介されると、結乃は少し恥ずかしそうに肩をすくめて軽く会釈した。