君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)

・ 二度目の運命?




それから何も状況は変わっていないまま、八年の年月が経ってしまった。

もちろん、ずっと敏生のことを一途に想い続けていたわけでもなく、楽しい大学時代を過ごす間には忘れていた時もある。
でも、結局誰にも〝好きだ〟という感情を抱けなかったのは、ずっと心の奥に敏生のことが引っかかっていたからなんだと思う。


それがこの会社で再会できて、結乃はその想いをもう一度自覚した。

敏生のことが〝好きだ〟と思う想いは確かなものになったけれども、彼は結乃のことを覚えていない。大衆に埋没してしまうこんな自分が、突然告白しても、敏生に引かれて、フラれてしまうのがオチだろう。
それどころか、社内でも人気のある彼に、周りを出し抜いてそんなふうに迫ろうものなら、顰蹙を買って居場所がなくなってしまいそうだ。



けれども、そんな想いを抱えて、変化のないままの毎日を送っていた結乃に、二度目の〝運命〟が訪れる。

寒い季節、社内ではインフルエンザが流行していた。特に、営業1課では猛威を振るい、業務に支障が出るほどだった。といっても、派遣社員を雇うほどでもなく、そこで総務へ相談が寄せられる。何人か人員を割いてほしいとのことだった。


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