君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
敏生も自然と優し気な微笑みを返しながら、心の中でガッツポーズをしていた。
――よし!マカロンで決まりだ…!
迷いがなくなった敏生は、この勢いに勇気を上乗せして、思い切って切り出した。
「あの、14日。一緒に帰れるかな?」
本当は、ちゃんとしたデートに誘いたいところだったけれど、今の敏生には、まるで高校生のように一緒に帰ることにくらいが精一杯だった。
「…14日?」
まさしくその日は、ホワイトデー。それに気がついたのか、敏生の誘いを受けて、結乃も少し気色ばむ。
「…うん、大丈夫だと思う」
「じゃ、出来るだけ俺も、定時に終われるようにするから」
「うん、じゃ、前みたいに駅で待ってる」
そんな話をしていると、課長の方の雑談も終わったようで、総務の主任が結乃に目配せした。結乃はいつものように眼差しで敏生に挨拶すると、営業1課の課長にも頭を下げて、敏生のオフィスを後にした。
――よし。やった…!!
敏生は結乃の後ろ姿を見つめながら、すごい回転技をして着地をピタリと決めたような気持ちだった。