君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
それから敏生は怒涛の勢いで働いて、仕事を次々と片付けていった。今日は早めに退社して、マカロンを買いに行くつもりだった。
営業で普段から街を歩いている敏生は、洋菓子店についても詳しかった。その中でも『マカロンが美味しい』と評判の店へ赴いてみる。
好きな人のために買い物をする初めての経験。ドキドキして、緊張して、ワクワクして…。マカロンを包装してもらってる間、あまりの胸の高鳴りに耐えかねて、敏生は落ち着かなげに店内に視線を走らせた。
その時、そこにあるものに目が止まる。
「あの、ちょっと待ってください。これも一緒に包んでもらうことはできますか?」
敏生がそう言って指し示したのは、マカロンのように色とりどりの紙で包まれたキャンディだった。
「大丈夫ですよ。一緒にお包みしますね」
すると、店員は、すぐに機転を利かせてくれた。
キャンディに込められている意味は、『あなたが好き』。その想いが結乃に届くように願いながら、敏生は包装をする店員の手元を見つめた。
これで、あとはホワイトデーを待つだけ。楽しみと不安が入り混じった、とても不思議な気分だった。