君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
「すみません。同じチームの俺が行ければよかったんですが…」
河合もそう言って、頭を下げに来る。いくら仕事の内容を理解しているとはいえ、この河合に一任することはできないと、敏生も思った。
「でも、鳥山先輩もひどいですよね。熱が出たなんて仮病使って…、ホントは今日ホワイトデーだから、彼女とデートするんだって言ってましたよ」
ポツリと河合がつぶやいた真実に、ピクリと敏生も反応してしまう。
――鳥山ぁ~…、また、お前かぁ~…!!
と、思わず叫んでしまいそうになったが、いちおう鳥山は敏生の先輩なので、口からそれを吐き出すわけにはいかない。
そんなことよりも、今は余計なことを思っている暇さえない。早速、敏生は出張の準備に取り掛からねばならなかった。
空港へ向かうタクシーの中で、結乃へメールを打つ。
『急遽、福岡への出張が入って、今日は一緒に帰れなくなった。俺の方からの約束だったのに、ごめん。』
あともう少しで成し遂げられるはずだった計画を根底から覆されて、敏生はがっくりとうなだれた。