君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
「今日は、三月というのに真冬みたいに寒いですね。…空港から、どちらまでお出かけですか?」
元気のない敏生に、タクシーの運転手が声をかけてくれる。
「福岡まで、商談に」
「福岡の方も、今日は寒いみたいですよ。お帰りは今日ですか?予報は雪みたいですけど…」
それを聞いて、敏生は眉をひそめた。どうやら今日は、とことんツイてない日みたいだ。
福岡に着くと、タクシーの運転手が言っていた通り、雪が降り出した。地下鉄の駅を出て、目的の場所へ向かう。
商談に入る前、スマホを確認してみると、三時の休憩に入った結乃がメールを確認したのだろう。返事が来ていた。
『とても残念だけど、お仕事だからしょうがないです。こちらでも雪が降ってきました。気をつけて帰ってきてください。』
今日は出張だから、結乃があの駅で待っていてくれることはない……。
だけど、やっぱりどうしても、今日結乃に会いたかった。あのマカロンとキャンディは、今日渡さなければ意味がないものだと思った。
あのバレンタインの日、結乃があの駅で待ち続けてくれたように、今日は自分が行動するべきだと思った。