君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
・ 春の夜の雪
敏生の予想通り、商談は順調に進んだ。双方に利のある形で決着がつき、課長にも良い報告ができそうだった。
和やかな雰囲気での雑談もそこそこに、息つく暇もなく空港へ向かう。
そして、早い便へ変更してもらおうとしたところ、早い便どころか雪のせいで全ての便が大幅に遅延していた。
――ウソだろ…!?
もう三月も半ばなのに、こんなことは信じられなかった。
どうしてこんなにも、悪条件が重なってしまうんだろう。
でも、泣き言や恨み言を思っても意味がない。出来るだけ早い便に乗れるように頼み込んで、まんじりと時間が過ぎ行くのを待つ。気持ちは逸るのに、身体は動けないこのもどかしさは、まるで拷問のようだった。
結局、飛行機に乗れたのは、予定の時刻よりも遅れて、夜の7時過ぎだった。それでも、まだ飛行機が飛んでくれたので、不幸中の幸いと言えた。
これから結乃の家へたどり着けるのは、何時になるのだろう…。
――でも、今日は絶対に会いたい!!
それは敏生の願いでもあり、信念のようなものだった。